アジア新風土記(104)香港・ライチ(茘枝)の季節 - 2025.07.03
私のからだは私のもの
被害者が勇気を振り絞って声を上げたとき、「レイプ神話」が浸透している日本社会ではさらに被害者が追いつめられる酷い現実がある。
「レイプ神話」とは、性暴力の被害者を非難したり、加害者を擁護したりする誤った信念や偏見のことであり、1970年代のフェミニズム運動の頃から使われている用語である。
代表的なレイプ神話は、「女性がはっきりとノーを言わなければ性行為に同意したと取られても仕方がない」「女性が男性の部屋に行ったら、性行為に同意している」「女性が男性に誘われて二人でお酒を飲みに行ったら、性行為に同意している」など。
レイプ神話を信じている人は、被害にあった自分を責めたり、自分がされたことを性暴力だと認識しなかったりするため、自分が受けた性暴力被害を訴えない傾向がある。
この「レイプ神話」をどの程度受容しているかについての日米の比較研究で、日本人のレイプ神話受容度を測定した結果、レイプ神話を強く信じる3つの傾向──
①女性よりも男性
②他の世代よりも若い世代(18~29歳)
③アメリカよりも日本での被験者が多いが示された。
また日本人のレイプ神話は──
①性犯罪行為を過小評価する心理
②暗黙の同意があったので性犯罪ではないと評価する心理の二つのグループに分けられることも明らかになった。
この結果は、アメリカでは連邦政府の援助を受ける学校や教育機関に対し、性によるハラスメントやその他の差別から人々を守るための教育プログラムを実施することを義務づけているが、日本にはこのような制度がないため、教育環境の差がこの結果に影響していると考えられる。
本書では性暴力の加害者について寛容な日本社会について、近世以来の性売買の歴史、日本軍「慰安婦」制度、沖縄における米兵による性犯罪、圧倒的な「権力勾配」を背景にした教師や政治家による性暴力の事例をもとに、被害者が声を上げるまでの思いや過程を手繰り寄せながら、性に関する歴史や現在の社会状況を掘り下げて考察している。
著者の思いは以下の言葉で結ばれている。
「私たちの社会から性暴力がなくなってほしい。性暴力を軽視して、なかったことにする社会であってほしくない。声を上げた人の声を聞き取る社会であってほしい。私のからだは私のもの。そう言える社会を作っていくために。」
第1章 性暴力に遭うのは特別な人じゃない
性と暴力が溢れたテレビや漫画
レイプを描いた「寺内貫太郎一家2」
「戦場にはええねえちゃんもおったんや」
どうして声を上げられなかったのだろう
「痴漢に注意」から「痴漢は犯罪です」へ
責められるべきは加害者だ
それって恋愛? それって対等?
性暴力に甘い社会と言われないために
第2章 2019年、女性は怒り、泣き、声を上げた
覚えていますか? こんなこと、あんなこと
尊属殺人重罰規定を違憲にした事件
なぜ、この犯罪が無罪に?
2019年4月、手に花をもって
越えるべき壁
第3章 私たちを取り巻くさまざまな性暴力
教師から生徒への性暴力
職場で起きる性暴力
組織で起きる性暴力──よきことをする場で
政治家による性暴力
災害における性暴力
「同意はあった」は悪魔の言葉
第4章 子どもへの性暴力
小児性暴力
デジタル性暴力
第5章 性売買を認めてきた日本社会
吉原の賑わいを支えたもの
遊女のからだは商品だった
「芸娼妓解放令」は遊女たちを幸せにはしなかった
朝鮮半島にも公娼制度を広めた日本
朝鮮料理店と産業「慰安所」
そして日本軍「慰安婦」に
第6章 「慰安婦」問題──いなかったことにしないために
沖縄にいた「慰安婦」
戦地における日本兵による強姦の多発
「慰安婦」にさせられた人々
日本軍による沖縄女性への暴行
沖縄の慰安所
「慰安婦」の授業を続けながら
2022年におこなった「慰安婦」の授業
ソン・シンドの人生
授業を受けた生徒たちの声
「慰安婦」問題授業への攻撃と抵抗
いなかったことにしないために
第7章 敗戦直後に「慰安所」を作った日本政府
進駐軍のために作られた慰安所──「防波堤」にされた女たち
RAAの設置
性売買はなくならない
基地周辺で広がった買売春
第8章 商品にされる女性たち
売春防止法後も公認される性売買
悪質ホストクラブが売春を斡旋
韓国の性売買体験者は語る──性売買は性搾取であり、性暴力だ
性売買がはびこる日本社会
キーセンツアー、そしてアジアに買春に行く男たち
日本国内でも1990年代はエンコウ
セックスワーク論を乗り越える
第9章 沖縄で起きている米兵による性暴力
今そこにある性暴力
沖縄で起き続ける性暴力
「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」のたたかい
「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」高里鈴代氏に聞く
がんばるのはだれか
第10章 軍隊内で多発する性暴力
米軍内で多発する性暴力
自衛隊の中で起きている性暴力
軍隊の中でなぜ性暴力が起きるのか
第11章 声を上げなければ変わらない
巨大な組織に向かって声を上げる人々
声を上げた被害者に容赦なく石を投げつける社会に抗して
フラワーデモ#MeToo #WithYou、そして#Kuu Tooへ
全国にもっと多くのワンストップ支援センターを
My body,my choice
長いおわりに