梅田正己のコラム【パンセ12】  代替わり狂騒の裏側で

隠された改憲のたくらみ



〈「憲法を守り」が令和で「のっとり」に〉

 今年5月3日の「朝日川柳」のトップにあった牧和男さんの作である。
お気づきのように、30年前の前天皇の「即位後朝見の儀」での「おことば」では「日本国憲法を守り」とあったのが、今回の新天皇の第一声では「憲法にのっとり」と変わったのをとらえた川柳である。

 この「即位後朝見の儀」は天皇の「国事行為」として「内閣の助言と承認により」(憲法7条)行われた。当然、「お言葉」も閣議決定を経ている。だから先の牧さんの作に続く岩井廣安さんの川柳もこううたっていた。

〈検閲が済んだ「おことば」我ら聴く〉

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 この天皇の「即位宣言」に対して安倍首相が述べた「国民代表の辞」にはこんな言葉が散見された。

 「ここに英邁なる天皇陛下から」「日本国憲法にのっとり」「国民統合の象徴として仰ぎ」「誇りある日本の輝かしい未来、人々が美しく心を寄せ合う中で」「令和の御代(みよ)の平安と、皇室の弥栄(いやさか)をお祈り申し上げます」


 弥栄(ますます栄える)などという言葉は初めて聞く若い人が多かったのではないだろうか。戦前は天皇をたたえる際の慣用語だった。「万歳!」の代わりに「弥栄、弥栄、弥栄!」と叫んだりしたのである。


 安倍首相の「悲願」は改憲である。今年の憲法記念日でも「2020年までの改憲の実現」を公言している。だから「英邁なる天皇陛下」に「憲法を守る」と言われてはまずかったのである。

 「のっとり」は漢字では「則り」と書くが、また「乗っ取り」とも書ける。「憲法にのっとり」とした背景には「憲法乗っ取り」の意図が隠されていたと読んでも、あながち的外れとは言えないのではないか。

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 あまり報道されていないが、今回の代替わりを前に、政府は4月2日、全国の学校や地方公共団体に対し、国旗掲揚を促すことを閣議決定した。文部科学省はそれを受け、全国の教育委員会に国旗掲揚を通達した。


 国旗国歌をめぐって東京、大阪をはじめ各地の入学式や卒業式でどれほど大量の「目に見えぬ流血」があったか、心ある人にはわかっているはずである。

 その上さらに自民党改憲草案は、現行の日の丸・君が代を単に国旗国歌とすると規定しただけの「国旗国歌法」に、「国民の尊重義務」すなわち強制条項を付け加えている。

 今回の代替わりではメディアを挙げて狂騒曲に舞い踊ったが、その裏ではひそかに改憲の手が打たれていたのである。

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