梅田正己のコラム【パンセ7】安保関連法(戦争法)あってこその「自衛隊明記」

安保関連法(戦争法)あってこその「自衛隊明記」

――安倍首相9条改憲論の核心


《とうとうと語る。国会で首相の改憲に関する答弁が昨年の4倍に。でも「9条に自衛隊明記」の本意が見えない。》

 2月7日付朝日新聞夕刊の題字下コラム「素粒子」の寸言である。

 たしかに「陸海空軍その他の戦力」の保持を禁じた9条2項は残したまま自衛隊を書き込むという首相の真意はわかりにくい。しかし首相としては成算があってのことに違いない。それは何か。

 

 ■「自衛隊は戦力でなく『実力』」

 

 さる1月30日の衆院予算委員会。無所属の会の原口一博議員に対する9条問題での答弁を終え自席に戻った首相のもとに官僚が近づき、何ごとか耳打ちした。

 次の答弁に立った首相は「お答えの前に」といってこう前言を訂正した。

「先ほど自衛隊は自衛のための必要最小限度の戦力と言いましたが、戦力ではなく実力です」

 戦力ではなく実力。60年以上にわたる歴代自民党政権による自衛隊の定義「自衛のための必要最小限の実力」を安倍晋三首相も踏襲していることを明言したのである。

 首相はまた憲法明記後に、自衛隊の活動内容は変わるのかと問われて、変わらないと答えた。

 憲法に明記しても自衛隊の定義は変わらず、役割も変わらない。では何のために自衛隊を憲法に書き込みたいのか?

 

 ■自民党の改憲草案は「9条2項削除」

 

 首相のこの方針に対しては、自民党内にも異論が強い。同党で正式に党議決定された改憲草案では、9条2項は削除され、自衛隊は国防軍と改称されているからだ。

 しかもこの草案の作成には、他の首相経験者と並んで安倍氏も「最高顧問」として参画している。なのに、それを否定する改憲案を平然と提起しているのである。

 ナゾを解くカギは二年半前の15年9月、強行採決した安保関連法にある。それにより、次のような場合には政府は集団的自衛権を発動できる、自衛隊は武力を行使できる、となった。

「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる明白な危険がある場合(存立危機事態)」だ。

 では具体的にはいかなる場合を存立危機事態とするのか。首相はホルムズ海峡の機雷封鎖などの例を挙げたが、いずれも説得力を欠いた。要するに時の政府の判断に委ねられることになる。

 存立危機のほか「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」に際しては自衛隊は米国以外の外国軍に対しても協力支援活動ができることになったが、その判断もすべて政府に任されるのである。

 

 ■安保関連法で変質していた9条2項

 

 こうして自衛隊は政府の判断ひとつで海外(地理的制約はない)に出動して米国と作戦行動を共にし、他の外国軍とも提携できることになった。

 つまり自衛隊は15年9月の安保関連法の成立を転回点として明らかに変質したのである。

名称は変わらずとも、自民党改憲草案が作られた12年4月当時に比べ、機能・役割も活動領域も一挙に拡大した。だからもはや9条2項を削除する必要はなくなった。

 これが、安倍首相がハードルの高い2項削除論から、ずっと低い自衛隊明記論に「転向」した理由であろう。

 しかしここで新たな重大問題が発生する。

 安倍氏はなお自衛隊は「自衛のための必要最小限の実力」という定義を踏襲している。したがってその自衛のための措置は「必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」(既存の政府答弁)

 ではこう定義された自衛隊と、安保関連法で海外での軍事行動を容認された自衛隊とは、はたして同じ自衛隊といえるのか?

 この矛盾は誰の目にも明らかだ。従ってこれが追及すべき核心の問題となる。つまり、首相自ら認めた自民党の「伝統的」定義に照らして、改めて安保関連法の意味を問いなおすということだ。


 それにしても、首相はなぜ憲法への自衛隊明記に固執するのだろうか。


 大日本帝国憲法には天皇の統帥の下、陸海軍が明瞭に規定されていた。「日本を取り戻す」ことを悲願としている安倍氏には、自衛隊が憲法からオミットされているのが許せないのであろう。





(本稿は日本ジャーナリスト会議の機関紙『ジャーナリスト』2018年2月25日号に発表したものである。)

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