- NEWS
アジア新風土記(133)ソロモン諸島の選択

|
著者紹介 津田 邦宏(つだ・くにひろ) 1946年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。72年、朝日新聞社入社。香港支局長、アジア総局長(バンコク)を務める。著書に『観光コースでない香港・マカオ』『私の台湾見聞記』『沖縄処分―台湾引揚者の悲哀』(以上、高文研)『香港返還』(杉山書店)などがある。 |
南太平洋メラネシアにあるソロモン諸島はオーストラリアの北東、パプアニューギニアの東方に位置し、ガダルカナル島など主要6島とその他の島々1000余りで構成される島嶼国家だ。
面積2万8900平方キロ、人口は87万人。
英国王を国王とする立憲君主制国家でもある。
16世紀、古代イスラエル・ソロモン王の財宝を探し求めていたスペインの探検家がガダルカナル島で砂金を発見、財宝に因んで名付けたともいわれる諸島はいま、その動向が太平洋地域の外交・安全保障問題に波紋を広げている。
2026年5月、ソロモン諸島の一院制議会、国民議会(定数50)は野党勢力が提出したマネレ首相不信任案を賛成26票、反対22票で可決する。
首相はソガバレ政権時代の19年、外相として首相と共に台湾と断交して中国との国交を樹立させ、24年の就任後も中国との友好路線を続けた。
だが、不明朗な財政運営などの批判を受けて一部与党議員の離反を招く。
1週間後の首相指名選挙では野党連合指導者のワレ氏がマネレ内閣のアゴバカ外相を破った。
ソロモン諸島、議会が新首相選出 対中慎重派のワレ氏https://t.co/aRclsZPj7k
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) May 15, 2026
政変はソロモン諸島の外交政策を転回させ、新首相は「変革のときが来た」「変革は痛みを伴うが国民は勇気をもって結束してほしい」と訴えた。
出身地はソロモン諸島第2の島で人口は最大のマライタ島(マライタ州)。
住民は台湾と国交を結んでいたころから医療、農業分野などでの支援を受け、台湾断交時はガダルカナル島の首都ホニアラで抗議行動を起こすなど中央政府と対立してきた。
ワレ首相は就任半月後にはアルバニージー豪首相と安全保障、治安、経済開発などの包括的協力を定める新条約締結で合意、太平洋地域内の協力関係を優先する方針を鮮明にする。
7月には警察官らが米沿岸警備隊の巡視船に同乗して共同で海上監視に当たる「シップライダー協定」を米国との間で結ぶ。米国はさらにソロモン諸島への25年振りの平和部隊派遣を表明する。前政権時代は国連で東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出を批判するなど厳しい姿勢に終始した日本とも経済協力推進で意見の一致を見た。
ソロモン諸島は22年に中国と中国艦船の寄港、軍・警察官の派遣などを可能とする安全保障協定を締結したが、その見直しも明らかにした。
中国との貿易面でのパートナー関係は変わらないとするワレ首相の外交手腕が問われることにもなる。
26年8月31日、ソロモン諸島、フィジー、トンガ、オーストラリア、ニュージーランドなど太平洋の16か国・2地域に米国、中国、日本などの域外対話国を加えた「太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議」がパラオの中心都市コロールで始まる。台湾からは林佳龍外交部長(外相)が出席した。
25年のソロモン諸島での首脳会議はマネレ首相によって台湾は拒否され、米国などの全ての域外対話国の参加も見送られた。
今回は台湾を「開発パートナー」とする1992年合意に則った従来方式が復活した形だが、パラオがマーシャル諸島、ツバルとともに台湾と外交関係を維持していることも大きな要因だった。中国は台湾の開会式出席後、銭波・太平洋島嶼国担当特使が「代償を伴うことになるだろう」と強い調子で抗議した。
代償についての具体的な言及はない。
パラオ首脳会議はまた、5か国の首脳が欠席するという異例の会議となった。ソロモン諸島のワレ首相はマエランガ内相ら3閣僚が独善的な政権運営だとして辞任、不信任案を国民議会に提出する事態になって急遽、帰国する。
キリバス、サモアなど他の4か国首脳は航空便の都合、伝統的なフェスティバル優先などの理由を挙げた。中国の「圧力」があったのかはわからない。
ただ、8月7日の外相会議は中国の原子力潜水艦が7月6日に太平洋の公海上で模擬弾頭搭載の戦略ミサイル1発を発射してツバル周辺海域に着弾したとされながら、非難の共同声明を見送った。
首脳会議は気候変動、海洋安全保障などの問題について論議され、9月3日の最終日には中国の戦略ミサイル発射実験を念頭に、十分な事前通告をせずに多くの加盟国に影響を及ぼしたとして「懸念を表明する」との声明を採択して閉会する。外相会議より一歩踏み込んだもののナオエロ(ナウル)が反対して全会一致とはならなかった。
ソロモン諸島の域内重視に同調するような動きの一つに海上監視がある。
パラオ、パプアニューギニアなど11か国は8月3日から約2週間、2800万平方キロに及ぶ海域でオーストラリア軍機、米沿岸警備隊巡視船などの支援を受けて100隻以上の漁船への臨検を行う。親中派のキリバスも加わり、警察海洋部がサメのヒレを切り取って胴体は捨てる違法操業の疑いで中国漁船1隻を拿捕したと26日のAFP電は伝えた。
太平洋が大国の覇権争いの場になったのは、中国が21世紀に入って海外への経済援助を活発化させてからだ。台湾がソロモン諸島、キリバスなど6か国と外交関係を結んでいたことへの対抗もあった。
米国、オーストラリアにとっては第二次大戦後は常に影響力を行使していただけに想定外の事態だった。(『アジア新風土記82』参照)
太平洋諸島フォーラムの国々は気候温暖化よって国土が水没していくなどの喫緊の課題に取り組まなければならない。その最中に大国間のせめぎ合い、あるいは中台の国交樹立合戦に巻き込まれたのは不運としか言いようがない。
支援は米中、あるいは台湾を問わず必要だが、先進諸国、域外対話国などの思惑によって翻弄されるのは本意ではないはずだ。そのことはパラオのウイップス大統領が首脳会議開会式で述べた「パートナーの国々が共に航海するのは歓迎するが、行先を選ぶのは彼らではない」という発言からも汲み取れた。
ソロモン諸島の変化は中国の優勢が顕著だった太平洋地域で「揺り戻し」が始まったとみるべきかどうか。中国の対抗策そして米国にしてもトランプ大統領の太平洋政策など不確定要素も多い。
ワレ首相不信任案は9月6日、与党が新たに2議員を加えて過半数を維持したことで国民議会が取り下げを発表した。次の総選挙は28年だ。結果次第で親中路線が復活する可能性もある。米国などとの協調に舵を切った選択の是非はなお、定まっていない。
ホーム
ご注文方法
カートを見る
お問い合わせ
関連書籍










