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『観光コースでないハワイ』
観光コースでないハワイ
「楽園」のもうひとつの姿

高橋真樹=写真・文
取材協力=一瀬恵美子
●B6判 240頁
●2011年6月27日発行
●本体価格1700円
●ISBN 978-4-87498-460-4

ハワイを訪れる日本人は年間一五〇万人以上。一日では約四千人以上になる。
大半はホノルルのワイキキビーチで過ごし、ショッピングとグルメ、ゴルフやマリンスポーツを楽しむ。
これだけの日本人が旅するハワイなのに、その「情報」はあまりに限定的だ。
知っているようで実は知られていないもうひとつのハワイ、心豊かに暮らす人びとの姿を、気鋭のノンフィクションライターが忠実な取材による文章と、160点の写真で紹介!
定番の観光地から、ほんのちょっと行ったところにそれはあります。
この本が、新しいハワイの旅のきっかけになれたら幸いです。

      
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 著者 
高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、編集者。1973年、東京生まれ。1996年から2010年まで、国際NGOピースボートのスタッフとして、世界60カ国以上を巡りながら、国際協力、難民支援などに携わってきた。現在は、様々なNGOとのネットワークを活かしながら、執筆を通じて世界の現実と「私たちにできること」を伝えている。紛争地の若者たちの出会いを描いた著書『イスラエル・パレスチナ 平和への架け橋』(高文研)は、平和協同ジャーナリスト基金奨励賞を受賞。近著に『紛争、貧困、環境破壊をなくすために世界の子どもたちが語る20のヒント』(合同出版)。
2008年から放送大学非常勤講師として「パレスチナ難民問題」の講義を担当。
★ブログ「しゃろーむ&さらーむ」http://ameblo.jp/marae

●もくじ

はじめに
  • 「虹の島」の灯篭流し
  • ハワイか? ハワイイか?
  • 「もうひとつのハワイ」と出会う
T 先住ハワイアンから見たハワイ──アロハ・アイナのココロ
  • 「ハワイポノイ」──ハワイはアメリカではない?
  • タロイモ畑はぼくらの家族
  • アロハ・アイナ=土地を愛そう
  • アフプアア─ハワイアンの命の舞台
  • 学びと癒しの谷・カアラ
  • カメハメハ大王と欧米人
  • サトウキビ畑が奪ったもの
  • 二度のクーデター
  • 二万八千人の署名
  • ハワイアン・ルネッサンス
  • ポカ・ラエヌイの闘い
  • ハワイ独立論
  • ハワイアンとは誰か?
  • ひとつのものには八つの見方
  • 地域で育てる学校
  • 英語は小学校五年から 
  • 消えたハワイ語
  • ことばと文化
  • ワイメア渓谷──開発から守られた聖地
U 基地の島を歩く──太平洋のモンスター
  • ハワイ最大の観光地
  • パールハーバーの復讐者
  • 戦争テーマパーク
  • みんなの利益
  • えひめ丸事件
  • ハワイの黒幕
  • 伝説の部隊
  • モンスター──太平洋軍司令部
  • ターゲット・アイランド
  • バースストーン=誕生石
  • 欲しいのは軍から身を守る安全
  • OKINAWAデモ
V 観光大国のゆくえ──つくられたパラダイス
  • 宮殿とホームレス
  • 再びワイアナエ海岸へ
  • 立ち上がったホームレス
  • ビーチから追い出さないで!
  • つくられた「パラダイス」
  • 「ハワイ」の完成
  • バナナも砂糖も輸入モノ?
  • 「お客様は神様」じゃない
  • 消えてゆく固有種
  • 観光のカタチを変えるボランツーリズム
  • 捕鯨の街はいま
  • 徹底したエコツアー
  • リーディングカンパニー
W 楽園の農場のヒミツ──疑惑のタネ
  • 移民たちの村で
  • ハワイの中の沖縄
  • 日本に届くパパイヤの正体
  • 世界最大の実験場
  • 「世界を救う企業」が作っているもの
  • 「遺伝子組み換えでない」の本当の意味
  • 闘うフリーペーパー
  • 世界で一つだけのコーヒー
  • 大事なことはみんな大地が教えてくれる
  • ぼくは種をまきつづける
  • 「観光コースでないハワイ」を訪ねて
あとがき──ハワイは小さな地球
◎「もうひとつのハワイ」を歩くガイド
◎ハワイ関連略年表


 
●担当編集者より

 「観光コースでない」シリーズ15冊目はハワイです。
 年間150万人以上の日本人が訪れる「南国の楽園」ハワイ。きらめく太陽と白い砂浜、そしてマリンスポーツ……。長い間ハワイは日本人にとってビーチリゾートの定番となってきました。しかし千年以上ハワイで暮らしてきたハワイの先住民から見みると、この島々には、日本人が想像もできないような現実と、大地に育まれた豊かな知恵がたくさんありました。

 日本人のイメージとはまるで異なるハワイを伝える本書は、「ハワイ先住民から見たら今のハワイはどう見えるか」をテーマにしています。ハワイの歴史上、先住民がどのように扱われてきたか、そして「楽園」と呼ばれるハワイでどう暮らしているのか……。
まさに【観光コースでない】ハワイの紹介になっています。
 筆者は気鋭のノンフィクションライターです。

 大規模な観光をめぐる問題や軍事基地による影響、あるいは現在ハワイで島を挙げて進められている「遺伝子組み換え作物」に対して、持続可能な暮らしを実現するために取り組む人々を紹介しています。
 オルタナティブツーリズム、エコツーリズム、基地反対活動家、地域の結びつきを取り戻そうとするファーマー、そして消えかけたハワイ語を取り戻した学校など、ハワイ各島の一〇〇を越える人々、組織に取材をして書き上げた労作です。

 ハワイに観光や語学留学などで行く方はもちろん、3・11の震災後をどう生きるかを模索している方々にも読んでいただきたい、先住ハワイアンの豊かな知恵が詰まっています。
 是非ともご一読ください。

(山本邦彦)



立ち読みコーナー

はじめに

●「虹の島」の灯篭流し
 太陽が西に傾きかけたオアフ島・アラモアナビーチパークは、四万人以上の人で埋め尽くされていた。アメリカでは毎年五月の最終月曜日に、戦没者を追悼する記念日(メモリアルデー)を設けている。国民の祝日になるこの日、ワイキキビーチに近いこの遠浅の海岸では、灯篭流し(ランタンフローティング)が盛大に行われる。もともとは、亡くなった家族や友人を偲んで灯篭を流すという、日系人が持ち込んだ風習だったけれど、ハワイの人々が取り入れて、誰もが参加できるイベントになったものだ。今では地元の人を中心にしながら、大勢の観光客も楽しめるようになっている。ハワイではこのように、先住ハワイアンや移民してきた様々な民族の文化が取り込まれて、ハワイに暮らす人々みんなの文化になっていることが多い。ハワイが、色とりどりの文化がミックスされた「虹の島」と呼ばれる理由はそこにある。
 ビーチにせり出した巨大なステージで繰り広げられるパフォーマンスも、混じり合う文化を象徴していた。日系人による和太鼓、マウイ島に暮らす白人ミュージシャンのウエスタンミュージック、先住ハワイアンのフラなどが次々と演じられる。踊られていたのは、観光客向けの派手に腰を振るフラではなく、かつての先住ハワイアンが神々に祈りを捧げるために踊ったフラ・カヒコ(古式フラ)と呼ばれるものだ。
 仏教の僧侶による読経が終わると、海岸に集まった人々が手に持つ灯篭を、浅瀬に浮かべていく。オレンジ色の淡い光を放つ灯篭は、ぽつりぽつりと岸辺から離れて、静かに打ち寄せる波間に漂っていく。大切な人を思い、涙ぐむ白人女性もいれば、お祭りのような雰囲気のこの時間を楽しむ先住ハワイアンの家族もいる。海を隔てた正面の山の稜線にゆっくりと夕日が沈み、夕闇が人々と静かに流れる灯篭を包み込んでいく。幻想的な光景だ。
 美しい海と山、多様な人種の共存、そして各民族の文化が織り成す調和……灯篭流しのイベントは、ハワイの魅力そのものを象徴しているようにも思える。マリンスポーツやゴルフ、ショッピングを楽しめるリゾート地はほかにいくらでもあるのに、多くの日本人が今もハワイにひきつけられている要因の一つには、こうしたハワイならではの不思議な魅力があるのだろう。
 でもハワイの魅力は、そうした「多民族が共存する虹の島」というイメージだけでくくることはできない。旅行ガイドには決して載らない「知られざるハワイ」を、視点を変えて見てみることにしよう。

●ハワイか? ハワイイか?
 ラパ・ヌイ、アオテアロア、そしてハワイイ。これらは、よく知られた太平洋の島々の名前で、今も多くの先住民族はこの呼び名を使っている。どこのことだかわかるだろうか。ラパ・ヌイ(広い大地)は、モアイ像で有名なイースター島のこと。アオテアロア(白く長い雲のたなびく地)は、ニュージーランドのこと。そしてハワイイは、もちろんハワイのこと。この三つの島々を線で結んでみると、三角形ができる。それが地球の表面積の六分の一を占める、広大なポリネシア文化圏となる。タヒチやトンガなどを含むこの地域では、古代からさかんに人々が移動して、交易、移住が続けられていた。だから、これらの島々の文化には多くの共通点が見られる。ただ、どの島からも遠く離れているハワイでは、次第に交流が途絶えて、自給型の社会を築くようになっていった。
 近代になってやってきた欧米人は、これらの島々を「発見」して、次々と名前を書き換えた。キリスト教の復活祭(イースター)に「発見」したからイースター島。「発見」したオランダ人が、故郷のゼーラント州という地名に因んでつけたニュージーランド。そしてハワイも、キャプテン・クックが「発見」したとき、航海の支援者の名をとってサンドウィッチ諸島と名づけられている。
 「サンドウィッチ」は定着しなかったが、「ハワイ」というカタカナだって、正しいとは言えない。ハワイを英語でつづると「Hawaii」となる。最後にiが二つ並んでいるから、そのまま読めば「ハワイイ」となるはずだ。そしてハワイ語では、実際に「ハワイイ」もしくは「ハヴァイイ」に近い発音をする。これをアメリカ人が、英語式に言い換えた。日本人にとっての「ハワイ」は、そこから始まった。最近では、ハワイ語の復興とともに民族意識が芽生えたため、逆に「Hawai'i」と書いて最後の「イ」を強調するケースも増えてきている。
 これまでほとんどの日本人は、イースター島やニュージーランド、そして「Hawaii」と書いて「ハワイ」と読むことに何の疑問も感じないできた。本書では、日本で一般的に使われている「ハワイ」という表記で統一したけれど、名称一つとっても、これまでのほとんどの知識が、欧米のフィルターを通してもたらされて来たことがわかる。逆に言うと、これまで常識とされてきたものとは異なる見方や考え方があることに気づけば、ハワイや世界との向き合い方は、ずいぶんと変わってくるということでもある。

●「もうひとつのハワイ」と出会う
 そんなことを考えるようになったきっかけがある。国際交流団体の仕事をしていた都合で世界各地を旅していたぼくは、「定番の観光リゾート」という印象が強いハワイにはあまり興味をもっていなかった。でも、二〇〇六年にハワイを訪れたときに見た光景が、そのイメージを一変させる。オアフ島で、夕陽に照らされたビーチを横目に車を走らせていたときだった。ビーチ沿いにはテントが並んでいた。初めはキャンプでもしているのかな、と思ったけれど、テントは何キロにも渡って延々と連なっている。よく見ると洗濯物が干してある。その横で、紙おむつ姿の赤ん坊を抱える大柄なお母さんが、途方にくれている。実はそこに住んでいるのはみんな、ホームレスだった。どこへ行っても日本人と出会うワイキキから、車で四〇分ほどのビーチに、これほど多くの家をなくした人が暮らしていることに驚いた。そして、自分がそんなことをまったく知らなかったことにも。
 それだけではない。ハワイのホームレスには、先住ハワイアンの血を引く人々が多い。それは、彼らの多くが低所得者であることを意味している。その理由を、ぼくが出会った日系のバスの運転手は「彼らはナマケモノだから、貧乏なんだよ」と言った。確かに勤勉でよく働く日系人から見て、南国ののんびりした文化をもつ先住ハワイアンがそう見えてしまうのは仕方のない面もある。でも、本当はそれが貧困の原因ではない。もともと彼らの土地であったハワイで、先住ハワイアンが家をなくしている理由は、ほかにある。
 「ハワイ」の呼び名と同じように、ハワイを訪れる人々はこれまでそこに目を向けようとしてこなかった。観光客にとって、ここは自分たちに都合の良い「パラダイス」であればよかったのだから、それも当然だろう。でもいつまでも無関心のままでいいのだろうか、とも思う。先住ハワイアンにとってのハワイは、観光客が思うような「パラダイス」なのだろうか。ぼくは、それを知りたくなった。
 ハワイを訪れる日本人は、数年前より少なくなったとはいえ年間一五〇万人以上にのぼる。一日あたりではおよそ四千人が飛行機に乗ってハワイにやって来ている計算だ。その大半は、ホノルルのワイキキビーチで過ごし、ショッピングとグルメ、ゴルフやマリンスポーツを楽しんで帰っていく。最近では、フラのようなハワイアン文化も人気になっている。一方で、今生きている先住ハワイアンの暮らしに触れたり、思いを寄せる機会はほとんどない。これだけの日本人が旅行をしているハワイなのに、その「情報」はあまりに限られた範囲に集中してはいないだろうか。

 二〇一〇年の四月に、ぼくは退職してフリーライターになった。そして五月から六月にかけてハワイを取材した。フリーとして最初の仕事にハワイを選んだ理由は、知っているようで実は知られていないこの島の別の面を、多くの日本の人に伝えたいと思ったからだ。ところが実際に取材をしてみると、ぼく自身が驚かされることばかりだった。
 当たり前のことだけれど、ハワイでは、旅行ガイドでは取り上げない出来事がたくさん起きている。貧困に苦しむ先住民族がいる。基地はいらない、と声を挙げるグループがある。持続可能なエコツーリズムにチャレンジする人々や、次の世代のために種をまくファーマーもいる。彼らのように、様々な困難に直面しながらも、たくましく行動する人たちのことを知ってもらいたい。一人でも多くの人がひとつのイメージにとらわれない「オルタナティブなハワイ」や「もうひとつのハワイ」と出会うきっかけがつくれたらいい、そんなふうに考えながらこの本を執筆した。

 ガイドブックには載らないハワイをめぐる旅へと出かける前に、ハワイ諸島の位置関係についておおまかに説明しておきたい。ハワイ諸島は、海底火山の溶岩によってできた大小一三〇ほどの島々と環礁からなる群島で、端から端までの長さはおよそ二四〇〇キロにもなる。ほかの大陸から遠く離れた海に、火山によってできたという性質上、人はもちろんだが、現在ハワイにいる動植物はすべて外からやってきている。島々の中で、人が住んだり、かつて住んでいたことのある島は八つで、通常ハワイという場合は、この八島をさすことが多い。私有地となっているニイハウ島と、米軍が射爆場として利用していたカホオラヴェ島は、基本的には観光客が訪れることはできない。訪れることのできる六つの島のうち、人口が極端に少ないラナイ島とモロカイ島(合わせた人口は約一万人)を除いた四つの島に、一三〇万人以上が集中して住んでいる。これら「主要四島」と呼ばれる島々は、日本に近い方から、カウアイ島、オアフ島、マウイ島、ハワイ島と並ぶ。中でも観光の中心ホノルルのあるオアフ島には、人口の八割以上が集中している(※1)。島と島の間の距離は比較的近く、飛行機で三〇分から一時間ほどで簡単に移動できる。
 本書では、必然的にオアフ島の話題が多くなったけれど、観光も自然も楽しめる人気の高いマウイ島や、諸島の中で最も大きく「ビッグアイランド」の愛称でも親しまれるハワイ島についても、ユニークな取り組みを紹介している。また、ハワイの旅に本書を持って行くという方のために、各章で紹介している旅行者が訪問できる施設や、本文では触れられなかったお薦めの場所について、巻末の「もうひとつのハワイ」を歩くガイドにまとめたので、参考にしていただきたい。
 なお本書では「ハワイアン」(※2)という言葉を、今現在ハワイに暮らしているハワイ州住民のことではなく、ポリネシア系の先住民族とその子孫という意味で使っている。また、登場するデータや人物の年齢などは、二〇一〇年六月時点のものである。
 それでは「楽園」のもうひとつの姿をめぐる旅に出かけてみよう。

※1 ハワイの人口=二〇一〇年四月一日現在、一三六万三〇一人(アメリカ国勢調査)で、一〇年前の調査から一二%以上増えている。その八割以上の約九〇万人がオアフ島に住んでいる。
※2 ハワイアンの呼び方=先住ハワイアンをさすことばは多様で、「カナカ・マオリ」という民族名が用いられる場合もある。しかし、ハワイでは混血が進み、運動を進める先住ハワイアンの中でもそのアイデンティティは複雑に分かれている。本書では、先住ハワイアン自身が自分たちのことを呼ぶ、最も一般的な「ハワイアン」という呼び方で統一している。ただ、それがわかりにくいと感じる場合に、「先住ハワイアン」としているケースもある。いずれも、ハワイ先住民族とその子孫の意味であると理解していただきたい。


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