「冷戦」の時代、世界には一つの国家・民族を分断した3つのラインがありました。ベトナムを南北に分断した北緯17度線、ベルリンを東西に分断した「壁」、そして朝鮮半島を真二つに引き裂いた38度線です。
ベトナム戦争と冷戦の終結によって、前の二つは消滅しましたが、38度線はいまも生きています。南北へ各2キロ、計4キロの幅で、248キロにわたって朝鮮半島を横断している軍事境界線(非武装地帯)は、したがって"冷戦の最後の現場"だといえます。
この休戦ラインは、いまも鉄条網で仕切られ、実弾を込めた銃を持つ兵士と監視塔によって見張られていますが、南北対話の進展によって、少しずつ少しずつ市民が近づける場所が開かれてきました。
現在、ジャーナリストを含め市民が接近できる軍事境界線のスポットは次の8カ所です。
まずは@休戦会談が行われた板門店、A首都ソウルから最も近い統一展望台から望める臨津江(イムジンガン)、B韓国の財閥・現代グループが観光ルートをつけた仏教の聖地・金剛山、C朝鮮戦争で最大の激戦地だった鉄原、D過去に列強の侵略を受け今も軍事境界線に程近い江華島、E映画「シルミド」の舞台となった秘密基地・実尾島(シルミド)、F同じく海の南北対峙の最前線・白島(ペンニョンド)、そして最後Gがこれも現代グループによって工業団地を造成中の古都・開城(ケソン)です。
本書は以上の8つの地点を訪ね、最新の模様を伝えたルポルタージュです。新聞記者として、ソウル支局長時代を含め朝鮮半島問題をざっと40年にわたり取材してきた著者は、小さな変化にも目をとめ、雪解けの兆しを肌に感じ取ります。
その意味で本書は、"冷戦の現場"取材を通して、今なお続く南北対立の張り詰めた空気の中に、明日の和解への予感を伝えるレポートだともいえます。
今年は、休戦会談からちょうど55年になります。3年間にわたった朝鮮戦争では、500万人の死傷者と、それに加え南北合わせて1000万の離散家族が生み出されました。
この事実に象徴される隣国の悲劇に改めて向き合い、非戦の誓いを新たにするためにも、心ある人たちが、朝鮮戦争の所産である38度線を、本書により著者と共に歩いてもらえたら、と願っています。