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高文研 top 写真で伝える東京大空襲の傷あと・生き証人【立ち読みコーナー】
 著者 
鈴木賢士(すずき・けんじ) 1932年東京生まれ。戦争中千葉県に疎開し、県立成東高校卒業後、家業(靴店)を継ぐ。戦後店を東京に移し、30歳で東京経済大学に入学、卒業。雑誌記者生活30年。在職中、50代の終わりから現代写真研究所に通い、写真を研究。日本リアリズム写真集団(JRP)会員。
1997年7月、銀座ニコンサロンで写真展『フィリピン残留日系人』、同時に同名の著書(写真と文)を草の根出版会より出版。2000年7〜8月、銀座ニコンサロンで写真展『韓国のヒロシマ』、同時に同名の著書(写真と文)を高文研より出版。2003年8月15日、「鈴木賢士の『韓国のヒロシマ』」を韓国放送公社KBSが製作・放映。2003年7月、フォトスペース光陽で写真展『中国人強制連行の生き証人たち』、同時に同名の著書(写真と文)を高文研より出版。2005年7月、新宿ニコンサロンで写真展『父母の国よ』、同時に著書(写真と文)『父母の国よ──中国残留孤児たちはいま』を大月書店より出版。2005年12月、『父母の国よ──中国残留孤児たちはいま』で「平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞」受賞。


はじめに


 この本は、今も残る東京大空襲の痕跡と、空襲により傷害を受け、あるいは肉親を失った人たちの現在の姿と声を、写真と証言で伝えるものです。

 一九四五(昭和20)年3月10日未明、東京の下町は米軍の大規模な空襲に見舞われました。グアム島を飛び立った約三〇〇機のB29戦略爆撃機が次々に飛来して、民家が密集する現在の台東、墨田、江東地域を中心に、焼夷弾の雨を降らせたのです。男は徴兵にとられていて、女性、子どもと老人が火の海を逃げまどい、史上空前の被害を出しました。僅か2時間余の焼夷弾攻撃で約一〇万人に及ぶ命が失われ、一〇〇万人が焼け出されました。広島・長崎への原爆投下に匹敵する大惨事です。

 一〇万人もの死者を出したというのに、東京都も国も、当然やらねばならない犠牲者の氏名記録すら行いませんでした。東京には、広島や長崎の被爆地にあるような独立した追悼施設もなければ、沖縄の「平和の礎」のような刻銘碑もありません。毎年やってくる3月10日に、総理大臣の参拝もないのです。
 「せめて家族の名前を刻んだ、おおやけの追悼碑がほしい」「軍人・軍属には国の手厚い保護があるのに、なぜ一般市民の空襲被災者には何の補償もないのか」
 被災者や遺族の間に、不満や疑問の声が湧きあがりました。平和国家であるはずの日本で、軍人優遇・民間人切捨ての差別扱いがまかり通っていることは、一般にはあまり知られていません。

 戦後60余年の歳月を重ねる中で、焼夷弾の猛火をくぐった生存者は年々減少し、やけどのあとも薄れかけ、すべてが風化の一途をたどろうとしています。「このままでは死者は浮かばれない」と、肉親を失った遺族たちが声をあげはじめました。亡くなった人の「せめて名前だけでも」という、氏名記録の運動が広がりました。そして今、国に謝罪と補償を求める裁判が始まろうとしています。

 歴史に残る大惨事を風化させまいとするさまざまな動きに、遅ればせながら私は心を打たれました。この人たちを今、ここで撮っておかなければという、せっぱつまった思いで被害者と遺族を訪ね歩き、この本をまとめました。都内各地に点在する戦災遺跡にもカメラを向けました。

 歴史的に見ると、非戦闘員を無差別に殺傷する絨毯爆撃という名の戦略爆撃は、一九三七年末から翌年初めにかけての南京大虐殺の後、日本軍による中国内陸の重慶大爆撃が最初といわれています。米軍がその手法を受け継いで、より大規模に行ったのが東京大空襲です。私たちは、アメリカが日本に対して行った非人道的な空爆・空襲の被害を問題にするわけですが、同時に、それ以前に日本が中国に対して行った加害の事実にも目を向けなければならないと思います。重慶と東京は、何の罪もない女性や子ども、老人を、お構いなしに殺傷する「無差別爆撃」の歴史的な被災地という意味で、つながっているのです。

 東京大空襲の後、日本中の都市を焼け野原に変えた米軍の空襲は、広島・長崎の原爆投下へと続きました。さらに、アフガン、イラクやレバノンなどで行われた空爆を考えれば、空襲の惨劇は昔の話ではなくて、まさに今日の問題と言っていいと思います。二〇〇六年8月に、私は重慶や楽山を訪ねて、70年近く前の爆撃の実態を調べるとともに、被害者の写真も撮らせてもらいました。

 この本には163点の写真を載せましたが、そのほとんどは、二〇〇五年10月以降の、つまり現在をとらえた写真です。戦争というものが、一般市民にどれだけ大きな被害をもたらし、それが永遠に続くものだということを、写真と証言から読み取っていただきたいと思います。戦火に焼かれた体と心の傷は、何年、何十年経っても、消えることはないのです。




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