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高文研 top 【下村昇の漢字ワールド】 【立ち読みコーナー】
 著者 
下村 昇(しもむら・のぼる)
1933年東京都に生まれる。東京学芸大学国語科卒業。東京都の公立小学校教員となり、漢字・カタカナ・ひらがな・数字の「唱えて覚える口唱法」を提唱。東京都立教育研究所調査研究員、国立教育研究所学習開発研究員、全国漢字漢文研究会理事などを歴任する。現在、「現代子供と教育研究所」所長。独自の「下村式」理論で数々の辞書や教育書、副読本などを執筆。著書は100点以上に及ぶが、中でもシリーズ『下村式・唱えて覚える漢字の本』(学年別、偕成社)は刊行以来400万部を突破している。
ホームページ http://www.n-shimomura.com/


【下村昇の漢字ワールド】刊行にあたって――著者よりのメッセージ

 よく、小・中学生の漢字の読み書きができないことが話題になります。新聞などに発表されている調査結果(数字)を見ると、確かに正答率は低いようです。
 昨年は小学生の漢字読み書き調査で「赤十字」が読めないなどという発表(総合初等教育研究所)で世間を驚かせ、今回はまた中学生の漢字が書けないという調査結果(ベネッセ教育研究開発センター)が発表になりました。そのたびに原因や対策が言われますが、だからといって、あまり芳しい効果は出ないようです。各学校の先生方も、それぞれ、いろいろと工夫はしているのでしょうが、その割りには顕著な効果が表れないのでしょう。
そうした中で、東京のある小学校(大田区内)では、漢字の指導を次のような方法によって行ったら効果が上がったと発表しています。
(1)漢字学習の時間を授業に定期的に位置付ける(週1回15分)
(2)下学年の漢字練習も繰り返し行って定着させる。
(3)自分で段階をおって進めるドリル的な教材を整備する。
(4)宿題を定期的に出すなど家庭での学習も重視する。
 このほかにも、「漢字を使った短作文作りなども取り入れ、漢字の学習に興味・関心をもたせながら、意図的かつ継続的に指導していったことなども、それまで苦手としていた漢字学習をこつこつ行う態度を養うことに役立った」といっています。

 この発表を読んでわかることは、当然のことながら、一つの学校が総力を挙げて、かなり積極的に漢字指導に取り組んだ結果が、子供たちの漢字力の向上につながったということです。
 こうしたことは、どこでもできるということではありませんし、また、この学校の教師集団のように、恵まれた環境の中で漢字指導の研究や工夫ができるという先生も多くはないはずです。一般には、個々の先生方が各人で奮闘し、悩み、苦しみ、試行錯誤しながら授業を進めているわけですが、努力の割に満足できるような指導の効果があがらないということです。
 漢字指導というと、書取り練習などがすぐ思いつきます。それゆえ、漢字の指導内容の多彩さを考慮し、上記(4)でいうように「宿題を定期的に出すなどして家庭での学習も重視する」ということにもなります。しかし、本来、授業の中で指導することが本筋であり,指導者としては漢字の用法や筆順の確認なども疎かにできないことですから、家庭学習に依存しながら定着をはかろうとする方法を重視するのもどうかと思います。
 理想的には授業そのもの、一人ひとりの子供への指導・確認のために、教師の目の届くところでの漢字指導が命であり、教師自身が『漢字』というものの特性を知り、効果的な指導法を身につけることが大事です。漢字は機械的な指導であったり、平仮名や片仮名と同じような教え方で効果のあがるものではありません。
 「漢字」とはいいますが、漢字はいまや日本語表記のツールです。もっというならば漢字は日本語としての「言葉そのもの」です。ですから、指導者は日本における漢字というものの特質を知り、その特質を最大限に発揮するような読み書き指導の方法を導き出すことがよいということになります。そして子供たちに日常生活の中で適切に使いこなせるようにさせて初めて、漢字をマスターさせることができた、漢字を指導したといえるのだろうと思います。そのためには、「漢字好き」な子供にしてやることです。
 私には以前から提唱している下村式の「口唱法」(R)を中核においた、子供向けの小さな本があります。『下村式・唱えて覚える漢字の本』(偕成社刊)といいます。幸い、この本は発売以来400万部を突破し、現在多くの子供たちに愛用され続けています。特に宣伝するわけでもないのに毎年コンスタントに10万部近くも増刷されているということは、日本の子供たちが求めている漢字学習のニーズにマッチし、子供の漢字学習の参考になっているということの証でもあります。
 こうした事実をもとに、先生方がこの本のどこに、子供たちが「漢字の勉強の魅力」を感じているのか、探って欲しいと思います。そうすれば、子供が期待する漢字学習の本質の一端が見えてくることだと思います。また、上記子供用の本からだけではわからない、この下村式の指導、口唱法の秘密を探りたくなるのではないかと思います。
 そして、下村式なるものの本質を正しく理解し、漢字の特性を踏まえ、子供にあった漢字指導を行えば、必ず子供たちは生き生きと、より以上に楽しんで漢字の学習に取り組むことだと思います。そのことによって指導の効果が上がればこんなよいことはありません。
 わたしには、漢字を教えるに際して、最低これくらいの漢字知識は持っていて欲しい。その上で指導計画を作成して欲しい。そして生きた口唱法を駆使して欲しいといった先生方に対する願いがあります。明治以来変わることも進歩らしい進歩も見られなかった漢字の指導法、だれ一人として疑問すらも抱かなかった教え方をここらで見直してもらいたいという願いもあります。 
 今回、そうした願いを実現するために『下村昇の漢字ワールド』と銘打った一連の文字指導の体系を全五冊にまとめる機会を得ました。国語専攻ではないからという先生でも、自分自身が漢字は苦手だと思っている先生でも、この本によって漢字及び漢字指導についての知識と知恵をみがき、子供たちの漢字嫌い、苦手意識を克服してやっていただきたいと切に願っています。そうした考えで上梓したものです。
 日本の美しい言葉であるところの日本語を、次代を担う子供たちに引き継ぐために、日本語と切っても切れない関係にある漢字、いまや日本語そのものでもある漢字です。先ずは、指導者自身が子供以上に真剣になって、漢字と取り組んで欲しいと思います。『ローマは一日にしてならず』は言い古された諺ですが、まさしくそのとおりだと思います。信念を持って、担任しているクラスの子供たちに、少なくともその年度一年間は夢中になって漢字の指導に当たってもらいたいと思います。
 本書はそうした、やる気と勇気を起こしていただくための、現場の先生方への陰ながらの応援のメッセージでもあります。ぜひご一読いただき、実践につなげて欲しいと思っています。



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